楽都まつもとを拠点とする「オペラを楽しむ会」の公演は、2021年4月18日、東京の緊急事態宣言になる1週間前に行われました。コロナ禍でありますが、いつもの半分の観客数の350人の方にお越しいただけました。感謝の気持ちでいっぱいです。
入場時に検温と消毒をして密を避けて市松状に間隔を空けた席にお座りいただき、換気も40分に一度しまして感染防止対策も徹底いたしました。マスクとフェイスシールドを着用しG.P.を行いました。本番はステージ上の換気がよいとのことでマスクもフェイスシールドも外しました。
第10回の節目を迎え、これまで着実な歩みを進めてくることができましたのも、ひとえに皆様方のご理解とご協力の賜物と心から感謝申しあげます。2007年の「オペラを楽しむ会」初回公演は、ピアノ伴奏のみだったにも関わらず大好評を得ました。それは、地方都市においてもオペラ制作が可能だという、確かな手応えを得た瞬間であったともいえます。その後、ヴァイオリンとチェロが加わり、第9回公演『ノルマ』では、ついに約40人編成のオーケストラが実現いたしました。公演の観客数は最多の回で1300人、平均すると750人。ソリスト、合唱団、衣装制作者など、多くの方々に参加していただけるようにもなっていました。
ところが、第10回記念公演を目前にして、新型コロナウィルス感染拡大という予期せぬ事態が起きてしまったのです。「主宰」を務める私の役割は、総監督・澤木先生と演目を検討するところから始まり、出演者の募集から稽古日の調整、会場の手配など多忙の一言に尽きます。合間を縫って、自身の訓練や発声法の追求はもとより、舞台の演出のとりまとめなども行わなければなりません。2020年春、早々と公演予定を組んで諸手配を進め、ポスターを印刷して配り終えた矢先に緊急事態宣言が発出されました。気持ちの整理がつくまでに時間は要したものの、私の情熱が衰えることはありませんでした。
以来、長引くコロナ禍は、私たちに意識改革を迫り、新しい生活様式の必要性を課すとともに、舞台芸術の世界には甚大なダメージを与えています。歌劇『椿姫』の主人公・ヴィオレッタには、クルティザンヌ(パリの上流社会において富裕層をパトロンにもつ、教養を身につけた美しい高級娼婦)であるマリー・デュプレシという実在モデルが、また、恋人アルフレードにはアレクサンドル・デュマ・フィス(小説『椿姫』の作者)というモデルがいます。ふたりの恋は悲しい結末を迎えましたが、ヴィオレッタは小説『椿姫』の成功で華麗に蘇り、ヴェルディによってオペラの主人公となって、160年以上にわたって歌劇場の観客を虜にしているわけです。160年の間には疫病の流行期もあったはずですが、『椿姫』はそうした災いを超えて演じられてきました。ここに「文化の花はコロナ禍を超えて咲き誇る」と私が信じて疑わない理由があります。『椿姫』の舞台に立つ私に、ヴィオレッタが降臨してくれたような気がしてなりませんでした。
「オペラを楽しむ会」の活動が末永く続くことを心から願ってやみません。次回公演を含め、引き続き応援を賜りますよう皆様方にお願い申しあげて、ごあいさつといたします。