全久院の宗派は座禅をする禅宗の中の曹洞宗です。曹洞宗の本尊様は釈迦牟尼仏です。そこで全久院の本尊様も釈迦牟尼仏です。「釈迦」とは釈迦族出身、「牟尼」とは聖者(むに)、仏とはめざめた者=覚者=仏陀という意味です。仏教というのはお釈迦様=仏 の教えを説いたものですから、本尊様は釈迦牟尼仏ということになります。
歴史上のお釈迦様は紀元前600年ころ、ネパールからインドにかけて広がっていた釈迦国に生まれ、名をゴータマシッダルタ(すべてのことがみな成就する、との意味)、お父さんはスッドーダナ(浄飯)王、お母さんはマーヤー、(摩耶)の間に生まれました。白象が胎内に入る夢を見て懐妊した、ルンビニー園の無憂下樹の花を賞でて手折ろうとして産気づく、お生まれになると甘露法雨が降り注いだ、7歩歩まれ、天地を指差し「天上天下唯我独尊」とおっしゃったなど有名な語り伝えがあります。 その教えは、人間の苦しみは何か(四諦)。それを克服する八つの行い(八正道)を説きます。縁起、無常、無我などが基本的な考え方です。教えについては順次お話してゆきます。
両脇には文殊、普賢菩薩がまつられています。本尊様の向かって右には、知恵の象徴である文殊様が右手に剣、左に経巻を持ち、獅子の台座に座っています。善財童子が道を求め文殊様を訪ねると、53人の師匠を訪ね求道の旅に出ることを勧めました。この話が東海道五十三次の元になっています。
左には理性を象徴する普賢様が白象の台座に座っています。善財童子が53人目に訪ねたのが普賢様で、人生の師として最高の境地に達した理想像です。般若心経の正式な題目「摩訶般若波羅蜜多心経」の波羅蜜(布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智恵)という六つの行いを、普賢様は勧めています。波羅蜜は自分より先に他の人々の幸せを願う生き方を説いています。昨年は様々な事件が起きました。他の人の幸せをまず願う生き方を肝に銘ぜよとの普賢様の教えを、私たちはもう一度噛み締めなくてはなりません。
廃仏毀釈の後のごたごたの中で資料が散逸して、この三尊仏の作が何時であるかはわかりません。仏像の価値は古いかどうかでなく、その仏像をお参りする私たちが仏様の説かれる生き方をしているかどうかであると思います。
平成18年1月号