全久院の本堂の本尊様の左に厨子があり、そこに十一面観音さまが奉られています。観音様は紀元前後ころ大乗仏教運動の始まりと同時に、人々の苦悩を救う菩薩(菩薩とは悟りを求めて修行する、仏と人間を繋ぐ存在)として出現しました。
インドの言葉ではアヴァロキテーシュバラ(アヴァローキタは観られた、イーシュヴァラは主人・本源的存在・自在の意)といいます。中国では6世紀玄奘三蔵が般若心経を翻訳し「観自在」としたのですが、4世紀に鳩摩羅什が「観音菩薩」と訳し、こちらのほうが世に受け入れられ現在に至っています。観音像の起源は古代イランのゾロアスター教豊饒の水の女神といわれる為か、水瓶と生産と豊饒のシンボル・蓮華を手にしています。観音さまのお経は妙法蓮華経の第25品「観音菩薩普門品」です。檀家の皆さまにも法事の度にお唱え頂いています。33の応身に身を変え、普門つまり、あらゆる方向を向いて(門は顔の意)人々を苦悩から救済してくださる観音さまを称えています。全久院の観音さまは松本観音霊場の6番です。33応身の6番目は自在天(玄奘三蔵の訳した、本源的存在・観自在)身に当たります。紅蓮華を持ち乳白色のお顔が自在天の特徴です。日本では平安時代六道輪廻の苦しみを救う六観音信仰が始まり、十一面・千手・如意輪・馬頭・准胝・聖観音の信仰が広まりましたが、全久院の観音さまはそのうちの十一面観音さまです。11の顔を持ち人々の苦悩を見つけ出し救済してくださいます。しかし、本当の救済は私たち自身が十一面の顔を持ち、今抱えている自分や家庭や社会の問題に対して様々な観点からその原因を考え、解決の道を歩むことにあると思います。私たちへの励ましが、観音さまの真意なのです。